2015年8月21日金曜日

ASLE Japan エコロジカルな視線で見たフランス語圏文学

8月23日(日)、ASLE-Japan文学・環境学会全国大会(長野県小諸市)にて、
フランス語圏パネル「エコロジカルな視点で見たフランス語圏文学」をおこないます。
以下プログラムの内容です。
本学会でフランス語圏の研究者が発表をする初めての機会となります。
うまくゆくといいのですが。

「エコロジカルな視点で見たフランス語圏文学」...

コーディネーター:大辻都(京都造形芸術大学)、発表者:鵜戸聡(鹿児島大学)、大辻都、笠間直穂子(國學院大學)、工藤晋(東京都立国分寺高校)
フランス語で書かれてきた文学の背後には、ヨーロッパ内陸の平野部、アルプスの山地、地中海、大西洋、カリブ海の沿岸部など、一様でない風景と気候環境が控えている。本パネルでは、広範な地理的ひろがりを有したフランス語圏を共通の土壌として、環境との関わりにおいて紡ぎだされる文学活動を検討してゆく。

各発表の内容:
涸れ河と猛禽:
アルジェリア文学の環境世界                 
鵜戸聡
フランス人による植民地表象へのカウンターディスコースとしての側面を持つ初期アルジェリア文学において、北アフリカの大地は自律した一個の世界として提示される。本発表ではカテブ・ヤシンのテクストを中心に、生まれつつある世界としてのアルジェリアが涸れ河や猛禽の形象によって幻視されるさまを紹介する。

塩鱈を喰らうちびジャン アメリカ植民地をめぐる漁師と奴隷の500年
大辻都

近代以降、大西洋を経由して他所へ向かう玄関だったブルターニュは、カナダやカリブ海へ移民を送り出した。この人的交流に導かれた口承文芸の地球規模での伝播を見るとともに、ブルトン人漁師により北の海で水揚げされた塩鱈がカリブの奴隷と交換され、奴隷の日常食として定着するサイクルにも注目する。

ラミュの描くスイス
笠間直穂子
スイス・ロマンドを代表する作家、シャルル=フェルディナン・ラミュは、生地の風土に見合った独自の文学言語を探求した。本発表では、ラミュの小説において、スイスの風景が、人間の暮らしと深く結びついた形で描かれるさまを見、ラミュの描き出す自然と人間との関係が、スイス固有の文化を表すとともに神話的な普遍性を帯びることを示す。


カリブ海から発信される「エコロジー的世界観」
エドゥアール・グリッサンの『ラマンタンの入江』(2005年)をめぐって
工藤晋

世界を混血的複合性の相でみわたす巨大な神話的ディスクールを展開した仏領マルティニク島出身の詩人・思想家エドゥアール・グリッサンのエッセイ集『ラマンタン湾』(2005)に展開される「存在の揺れ」の思考をたどり、作家晩年の越境の詩学について考える。

フランス語圏パネル:2015年8月23日(日)10時35分〜12時5分 安藤百福自然体験指導者養成センター・カンファレンスホール

2015年3月23日月曜日

新刊『芸術大学でまなぶ文芸創作入門』

今月、大辻都著『芸術大学でまなぶ文芸創作入門――クリエイティブ・ライティング/クリエイティブ・リーディング』(ブイツーソリューション)が刊行されました。
2015年度より大学のテキスト科目で使用する教科書ではありますが、一般向けの創作入門書として読まれることも意識して書かれており、少部数ですが、セブンネット、hontoなどネット書店を中心に書店にも流通します
以下、内容の目次です。

はじめに
Ⅰ. クリエイティブに書く!
第一章 小説は「書き出し」が命
       背景を説明し尽くすリアリズム的手法
       独自の小説世界に引き入れる
       文章の新鮮さでインパクトをあたえる
       唐突な書き出し
       読者への呼びかけ
       枠物語(額縁小説)
       ギリシア悲劇的な構造の提示

第二章 語り手を設定せよ
       一人称か三人称か
       介入する語り手
       二人称の実験
       信頼できない語り手
       枠物語の語り手たち
 
第三章 プロットとストーリー
       アリストテレスの定義、フォースターの定義
       「逆転」と「発見」の魅惑
       谷崎潤一郎「途上」のプロットを探る
       実践:プロットのある小説を書いてみる
       プロットは本当に必要なのか?
 
第四章 読ませる会話術
       基本的な会話文の表記
       その他の会話文の表記
       会話で状況を説明する
       「何気ない会話」を創る
       三人以上の会話
       会話によって関係を進展させる
       方言の可能性
       作品の色となる会話
       会話で構成された小説
       ポリフォニー小説
 
Ⅱ. クリエイティブに読む!
第一章 「異能の女」の系譜をたどる 
     桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』
       逆読み文学史の試み
       年代記と戦後史
       「紅緑村」という場所(トポス)
       意思を持つ家
 
第二章 魔術的リアリズム――幻視する女たち
      ガルシア=マルケス『百年の孤独』「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」
       魔術的リアリズムとは
       ラテンアメリカの驚異的現実
       寓話の喚起するイメージ
 
第三章 口承、クレオール、時空を旅する想像力
      中上健次『千年の愉楽』/コンデ『生命の樹』/ウルフ『オーランドー』
        声と文字と
        クレオールの陽気な死者たち
        男から女へ――時空も性も飛び超える
 
第四章 古典×現代リミックス①
      田山花袋『蒲団』/中島京子『FUTON』
        私小説はここから生まれた
        「打ち直し」というリサイクル――『蒲団』から『FUTON』へ
        『FUTON』を流れる三つの時間
 
第五章 古典×現代リミックス②
      C・ブロンテ『ジェイン・エア』/リース『サルガッソーの広い海』
        貧しい少女の自己実現の物語
        ポストコロニアル視線で見たイギリス紳士と「狂気」の妻
 
第六章 複数の無人島
      デフォー『ロビンソン・クルーソー』/トゥルニエ『フライデーあるいは太平洋の冥界』/桐   野夏生『東京島』ほか
       新しい想像力と近代的人間の誕生
       ロビンソンの子孫たち
       無人島とセクシュアリティ、女性、生贄
       「東京島」が生む原型としての群像劇
 
おわりに
 
本書で参照した文献リスト